鉄平石は、長野県の諏訪地方・佐久地方に広く分布する輝石安山岩の板状節理(ばんじょうせつり)がよく発達したもので、2~3cm程度の厚さに平たく割れる性質を持っています。
*輝石安山岩…斑晶鉱物として輝石を含む安山岩。日本の安山岩中最も普通。
およそ2,500万年前の八ヶ岳の火山活動によって 生まれたといわれています。
長野県から産出する鉄平石は信州鉄平石と呼ばれ、諏訪地方から産出する諏訪鉄平石と佐久地方から 産出する佐久鉄平石があります。両者とも乱張りや小端積みの門柱・石塀・敷石・外装など利用されています。
佐久鉄平石は色調が諏訪鉄平石よりも鮮やかなものが多く、薄紫~赤褐~褐~緑灰~濃緑などを呈するのが特徴です。また、諏訪鉄平石よりも細粒であり、黒色の輝石の斑晶はほとんど目立ちません。南佐久郡佐久穂町余地の板石山の採掘場では山頂に20m程の厚さで安山岩溶岩が露出し、北西へ20度程傾く板状節理が顕著に見られます。
出現は1884年頃とされ、江戸時代後期から明治時代にかけては、 特に諏訪地方において、主として民家の屋根材として利用されてい ました。重い鉄平石は運搬や建築に労働力がかかるため、屋根に鉄 平石を用いることは一種のステータスとされていました。 諏訪地方で鉄平石の屋根が普及したのは、鉄平石が諏訪地方特有の 強風でも飛ばされず、また瓦よりも寒さや積雪に強いといった理由 が挙げられます。 一方で運搬が困難だったことから、諏訪地方を中心に長野県外まで 鉄平石の文化が広まることは少なかったようです。